犬島港に近づいてきた。まず最初に銅製錬所の煙突が目に入る。犬島港に着いて、直ぐそばにある「シーサイド犬島ギャラリー」に向かう。まず最初に高橋啓祐さんの映像インスタレーション作品「The Fictional Island」を体験。真っ暗の部屋で壁を探りながら歩く。島のような砂のオブジェに映像が写りだされる。海岸の砂ではなく、精錬所のスラグ(鉱石から銅を精錬する際に生成される黒い砂)だそうだ。チケットオフィスの横を通るとグッズがいっぱい。エコバックが可愛い。購入してしまった。
このあとは、犬島精錬所美術館に向かう。犬島銅精錬所は倉敷市にあった帯江銅山の精錬所として1909年に創業したが、第一次世界大戦が終わりに近づくにつれて銅価格がピーク時の半値まで暴落し、1919年には閉鎖された。もともとは銅山に精錬所があったが、煤煙による公害問題で犬島に移転。しかし公害の原因は解決していなかったので、犬島も公害に苦しんでいた。同時期に直島、四阪島にも銅精錬所が建設され同様の被害だったそうだ。直島の精錬所は三菱マテリアルの中央精錬所として近代化していったが、今ではリサイクル施設として稼働している。農業や漁業が不振な島にとって企業誘致を進めるしかなかったが、同時に公害も呼び込んでしまった。豊島の産業廃棄物問題も同じ。それが近年の芸術祭で、観光業の可能性が高まっていると思う。それは島本来の景色の美しさを再認識させてくれる。精錬所も、スラグも負の遺産で、観光地と再開発するには隠したくなるかもしれない。それを負の遺産ではなく、芸術として島の人達の記憶と一緒に芸術に昇華させているんだと思った。
犬島精錬所美術館は遺構がむき出しのまま。変色、変形したレンガは、何かを語っているかのようだ。瀬戸内の海の柔らかい景色と対比的。美術館に入る。建築は三分一博志さんの作品。自然と一体となった建築で、遺構の煙突などを利用し、自然の空気の流れを作っている。窓は少なく、鏡を使って建物内に取り込んでいる。それにより空気を温めないようにしているらしい。鏡がある通路は、先に外の光が見える。歩いていくとL字になっていて、先に見えた光は角の鏡に写った光だとわかる。錯覚の迷路。
つぎに犬島家プロジェクトの集落に歩いて向かう。
ギャラリーは6箇所
2010年 「F邸」、「I邸」、「S邸」、「中の谷東屋」
2013年 「A邸」、「C邸」
あと、移動途中に作品もみることができる。
最初に「F邸」。泡のおばけのようなオブジェクト。名和晃平さんの「Biota (Fauna/Flora)」。
次に歩いて出会ったのが、「石職人の家跡」。古代遺跡のよう。奥にウサギの耳のようなアルミ製の椅子がある。これは後で、オリーブの葉っぱのデザインだと知る。周りを見渡すと起伏のある集落。家が波のように重なり合っている。
更に先に進むと、「S邸」。波打つアクリル板の作品。荒神明香 さん「コンタクトレンズ」。レンズを通して見える島の家が風景画のようになる。また、雨の日に窓から見える景色にも思える。
次も同じアクリルの作品。「A邸」、「リフレクトゥ」。同じく荒神明香 さんの作品。夏を感じる鮮やかな作品。花のようでもあり、サンゴのようにも見える。島の元ある景色からはとても異質なものに感じるが、それぞれが芸術作品のように共鳴しているようにも見える。
坂道をのぼり、鳥居の前をとりすぎ、くだっていく。沖縄で見た景色を思い出す。
「C邸」。下平千夏 さんの「エーテル」。ハンモックのような作品。作者の意図は光のながれ。
ふと足元をみると、緑の絨毯が広がっていた。
海岸に近づいていく。カフェが数件あった。
「I邸」。オラファー・エリアソンさんの「Self-loop」。無限機関のように回り続けている作品。
犬島港に戻ると、舗装された道の上にも「石職人の家跡」に似たペイントがある。
帰りの船を待つ。公衆トイレと自動販売機がある。芸術祭期間中は案内のテントもでていた。
素朴な景色の犬島を気にいいってしまった。素敵な島だった。宿泊施設は三箇所。そのうちの一つ、「犬島自然の家」は、旧犬島小学校、中学校跡。天体観測室もある。あとはログハウスと一軒貸し。
※参考
山陽新聞digital 「岡山動画風土記⑤アートで活気づく犬島(岡山市)」